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マージナルINDEX

1 イントロ
 イントロ

2 坂島クリニック
 1 坂島のような医師に・・・
 2 「お前は?」

2 石見佑香
 1 自動ドアの外にまで・・・
 2 法定特殊能力第7種・・・
 3 知らない大人に会うのは・・・
 4 クリニックで幸に依頼書を・・・
 5 石見は丁寧に診断書を・・・
 6 「・・・つまり斉藤さんはそうやって・・・
 7 「あなたはどう思いますか」
 8 自分が不安定なせいで・・・
 9 幸が石見の異変にきがついた・・・
 10 マックの表にはパトカーが・・・ 
 11 少し収まりかけていた石見は・・・
 12 クリニックのガラスのドアには・・・
 13 「【原因記憶】は消去した・・

3 三田浩次
 1 急な仕事だ。
 2 「その内部告発者は・・・
 3 「三田さん、入りますよ・・・
 4 隣の部屋には次の被疑者が・・・
 5 「結論から言うと・・・
 6 目が覚めたとき・・・ 

4 斉藤幸
 1 「あれ、幸さん?」・・・
 2 アパートは、幸のもの・・・ 3/9
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テーマ:更新報告・お知らせ - ジャンル:小説・文学


アパートは、幸のものではない。

名義人は幸の所属する公的な団体。

幸のような能力者は数多く存在するわけではないし、まとめて同じところに居住する必要性は低い。

そんな理由で、能力者は個々の都合に合わせて、適当な賃貸物件を「1部屋」単位であてがわれる。

契約だ。

幸の持ち物の全ては契約という一語に集約できる。



真っ暗な部屋に帰らずにすむために、出かけるときにはいつも小さな常夜灯を玄関先に灯す。

LEDの、温度のないオレンジ色の光。

腕を伸ばし、すぐに天井の明かりをつけた。さっきまで圧倒的に空間のほとんどを支配していた暗闇が、その瞬間に消え去る。

蝋燭の炎やフロアランプを好んで使い、部屋を薄暗くすることで心地よさを感じるタイプの人間は、きっとそこに生じる陰影になんの恐怖も感じないほど現実に夢中なのだろう。

あるいは、望まず闇に投影してしまうほどに不快な記憶を、その脳裏に持ち合わせていないのに違いない。

幸は暗闇が嫌いだ。



冷たい水で顔を洗う途中、ふと思いついてそのまま鏡を覗き込んだ。

無表情の頬を水が流れ、前髪が濡れている。そしてその目――

「!!」



濡れたまま部屋に引き返し、数年間触れることさえなかった懐中電灯を探す。

自分の目の色なんて、よくは知らない。でも、間違いなく、こんな色ではなかった。

ただ、それは洗面所が薄暗いせいだ。

昼間の光の下では、もっとありがちなこげ茶色であるはずだ。

そう考えながら、幸は記憶を探る。

「あった・・・」

少しホコリのついた懐中電灯を手に、再び鏡の前に立つ。

直接透かせばほとんどの日本人は茶色い目をしているはずだから。



「・・・」



セラミックのシンクから、歯ブラシが転げ落ちる。



懐中電灯の直線的な光に照らされた幸の目はその眩しさに瞳孔を絞ったはずだったが、幸にはそれがよく見えなかった。

虹彩と瞳孔の境界がわからないほど、幸の目は深く、濃い色をしていた。

胸を打つ、違和感。



『昨日までは、栗の殻みたいな色してた』



林の無邪気な声がまるで頭上を旋回するように何度も聴こえ、幸は呆然としながら機械的に歯ブラシを拾った。





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「あれ、幸さん?」

思わぬところで声をかけられ、幸は驚いて振り向いた。

林だ。

コンビニの明る過ぎる照明に浮き上がる、色の白いつるりとした顔。

「今日は出張だって聞いたのに」

「ああ、早く終わったんだ。思ったより手際のいい連中で」

「そうなんだ」

林はクリニックに居る時と変わらず、機嫌の良さそうな笑みを浮かべている。手にはプリングルスの長い缶。

「ジャンクフードなんか食べるのか」

「え?これ?食べるよ・・・変?」

「いや、こんな時間にそんなもの食べてても、健康そうに見えることは可能なんだな」

毛先まで新鮮な水が行き渡っているようなこの青年は、さぞや理想的な生活をしているのだろうと思っていたが、勝手な思い込みだったのかもしれない。

充血などしたこともなさそうな目を動かして、林は店内にかけられた時計を見た。

「・・・なんか食べる気うせちゃうよ」

笑いながら言いつつレジに向かう。

そういえば、幸は林のことを何も知らない。この辺りに住んでいるのだろうか?

艶のあるまっすぐな黒髪を見ながら、幸もレジへと向かった。



「幸さん」

「ん?」

自動ドアの前で林が言う。

「今日は随分目が黒いね」

「え?」

幸の目は、いつも黒い・・・と自分では思っているのだが。

見下ろした林は何故か少し意味ありげに笑っていた。

「幸さんは、仕事に行くたびに目の色が変わる。・・・知らなかった?」

「なんだそれ、どういう意味?」

「そのまんまだよ。昨日までは、栗の殻みたいな色してた」

何かの例えではないのか。

しかし、本当に虹彩の話をしているように林は言う。

「今は・・・黒い?」

「うん。ああいう明るいところにいくとよくわかる。クリニックとかね。部屋に戻って鏡見てみなよ。なかなか居ないよ、そんな真っ黒な目をした人」

林はそういうと「また明日」という言葉を残し、きびすを返した。

幸のアパートとは逆方向へ。

「・・・目の色?」

そういわれると、自分の目がどんな色だったか幸は全く知らない。思い出せないのではなく、意識して見たことがない。

しかし、人の目の色がそんなにコロコロ変わるはずは、ない。多分。

「あいつ、不思議ちゃんだったのか・・・」

林の後姿を見送りながら、幸は小さく呟いた。



  そんな真っ黒な目をした人は、なかなか居ない



林の言葉が引っかかり、幸はいつもより少し早足になった。







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目が覚めたとき、新幹線は丁度小田原を通過したところだった。

思ったより早く開放されたので、念願の日帰りを果たすことが出来たのだ。
時刻もまだ8時半。

無防備に寝てしまわないよう、幸はiPodに映画やポッドキャストを大量に詰め込んで持ち歩いているのだが、それでも睡眠不足には勝てず、いつの間にか眠り込んでしまったらしい。

半分も減っていない緑茶のボトルに手を伸ばす。

悪夢、とはいえないが、同じイメージばかり延々繰り返す夢を見ていたような気がする。

今日レコーダーで見た、あの「時間が飛ぶ」イメージだ。


『本日も東海道新幹線にご乗車いただきありがとうございます。まもなく新横浜に停車します』


スーツ姿のビジネスマンが占領する夜の車内にアナウンスが響く。
疲れた仕事人たちをそっと起こす天の助言。

(・・・先生)


新横浜で降りれば、地下鉄で30分もせずに養成所へ行くことができる。
幸が10代最後の数年間、そのほとんどの時間を過ごした場所。

『Ladies and gentlemen, we will soon make a brief stop at shin-yokohama. 』

隣に座っていた中年の男が立ち上がり、幸の頭上からバッグと紙袋を下ろし始める。

(ダメだ)

湯浅に話すとしたら、それは解決の報告でなくてはいけない。

自分はもう、彼の元を卒業したのだから。



   困ったことがあれば、いつでも来ればいい。
  お前は・・・誰かに相談したり、誰かを参考にするってことが出来ないからな。



あの違和感は幸の仕事を邪魔するものではない。

今すぐ解決する必要はない。



幸はそう自分に言い聞かせ、目を閉じてシートに背を深く沈めた。




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「結論から言うと、3人ともクロです」

「結論、ね」

刑事は胡散臭そうに幸を見下ろした。

研究所で3人分のスキャンを終わらせた幸を待っていたのは警察だ。その場で浅井の記憶【消去】を命じられ、済むや否や車に詰め込まれ、あっという間に捜査本部である。

「・・・と言っても俺の証言に法的な効力はありません。あ、これは【施術記録】です」

おそらく理解する気のない刑事は、幸がレコーダーから抜き出したカードを受け取ると慣れた手つきで簡単なメモを貼り付けた。

「それはあくまで俺の施術に対する証拠です。で、こっから先が捜査上の証言なので録音するならお願いします」

刑事は片方の眉を吊り上げると、黙って録音を始める。
おそらく、自分とは異なる世界の人間、【特殊能力者】と会話するのが面倒なのだろう。

「3名はそれぞれタカダ薬品中央研究所で自らが行った研究内容を持ち出し、複製して国外に持ち出しています。複製データは全てウェブ上に保存されており、それ以外の媒体は一切使っていませんでした。よって証拠はネット上にのみ存在します。アクセスの方法は、まず三田浩次から・・・彼の自宅のPCにパスワード保護された隠しファイルがあり、そこに暗号化されたアドレスが記載されています。ファイルのパスワードは6638171、ウェブのアクセスコードはtakatora。岸田は端末自体を隠しています。西宮の4D-roomというトランクルーム、ルームナンバーは22。無用心にもデスクトップ上にショートカットがあります。アクセスはIDが大文字の231Y0022B、パスワードはcream。最後、石川は」

幸はそこでいったん言葉を切り、薄いお茶を飲んだ。
薄すぎて何の種類だかわからない。

ここでは茶の味すら非日常的だ。


「・・・石川は、モバイル端末でダイレクトアクセス、パスワードは5291、以上」

「おい!web班呼んで来い!」

刑事がドアの外に向かって叫んだ。

「余計なお世話だと思いますが、証拠は既に消されている可能性があります」

「わかってる!」

「もしそうなっていたときには、俺の証言を疑うより前にまず証拠を含むwebページを復元する努力をしてくださいという意味です」

刑事の目つきがどんどん剣呑になってゆくが、幸はいちいちそんなことを気にしてはいられない。



「・・・情報はすぐにどこかへ消えていくものですが、俺は未来永劫、どこへも逃げられませんから」





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