「・・・つまり、斉藤さんはそうやって私の記憶を【探す】んですね」
「そうです。記憶には他に『いつ』とか『どこで』とかいう【タグ】も付いてます。結構間違ってることも多いんですけど」
「それは解る気がする!」
石見は身を乗り出した。
実際、人の記憶というのは驚くほど鮮明である一方、かなりいい加減な部分もある。
会った相手の洋服の柄まで覚えているのに、それが何年前のことかすっかり解らなくなるというのも良くあることだ。
幸の仕事で一番大変なのは記憶を【消す】ことそのものではなく、その記憶が今探しているものなのかそうでないのかを見分けることだ。
間違った記憶を【消して】しまっても、幸には戻すことが出来ない。
「そうやって探し出した記憶はたいてい、情報の塊を形成しているので、そこには【タイトル】が読み取れます」
「た、タイトル・・・?」
石見は怪訝な顔をした。記憶にタイトル。誰がそんなものをつけるのだろうか、という顔だ。
「例えです。僕に【見える】のは、なんというか、全体の『雰囲気』や『あらすじ』のようなものです。『これはこの人が母親とどこかへ出かけたときの楽しい記憶だな』とか、その程度のことを感じる」
「映像で?」
「色々です。怪我の記憶だと、すごくどこかが痛くなることもある」
「え・・・」
「勉強して覚えたことはとても整理されているので、文章として見えたりもします」
石見はホウと息をつくと、もうすっかりぬるくなってしまった紅茶を一口飲んだ。
幸の語った言葉を懸命に理解しようとしているようだ。
この少女はとても聡明で慎重な性格のように幸には思われ、決心したはずの気持が揺れるのを感じた。
些細なきっかけで事件のショックがフラッシュバックし、発作的にパニックを起す。確かに生活を根本から変えてしまうほどの重荷だ。
石見には何の責任もない、まさに『天から降ってきた』災厄。
なくなっても誰も困らない。確かにそうだ。しかし。
本当に【消して】しまってもいいのだろうか。
この少女なら、この苦しみを乗り越えることが出来るのではないか。
いつもの迷いが幸の中で渦巻き、胸を刺した。
