「あなたはどう思いますか」
不思議な能力のことに気をとられていた佑香は、突然斉藤にそう尋ねられ、意味を汲み取ることができなかった。
「え?」
斉藤の顔は、今まで整然と説明していたときとは明らかに違っている。
出合ったときに感じた圧倒的な『何か』は姿をひそめ、普通の、少し困っている男の顔だ。
顔をそらせて、うつむいて。こうしてみると、彼は鼻筋がとても綺麗で、結構悪くない。
そんなことをぼんやりと思った佑香は、自分の発想に驚いた。あんなに会うのが面倒だったのに、もうそんな風に思えるなんてどうかしている。
「記憶を・・・消したいと思いますか」
横道に逸れていた佑香の思考は斉藤の言葉で戻された。
これは契約の最終確認のようなものなのだろうか?
「・・・先生が、それが一番いいって・・・」
「先生ではなくて、あなたです」
斉藤は穏やかに言う。しかし佑香は問いただされたように感じた。自分の症状を自分がどう思うかなんて考えたことはない。決めるのは医師だ。だって病気なんだから。
「私は・・・わかりません」
しかし斉藤は引き下がらなかった。
「わからなくていいんです。医者じゃないんだから。ただ、あなたがどう思ってるのかを教えてもらえませんか」
「それがわからないと【消せない】んですか・・・?」
何だか怖い。
決断を迫られるのは好きではない。
まして、こんな大事なこと・・・
「・・・僕が」
斉藤は言いかけて目をそらした。
「僕が、知っておきたいだけです。すみません、嫌な気分になったなら謝ります」
「嫌っていうか・・・」
佑香は、何故か斉藤がとても気の毒になった。
自分には想像することしかできない凄い能力を持っているのに、彼はちっとも幸せそうではないからだ。
もっと自信満々で、有無を言わせない、怖い存在だと思っていたのに。
「嫌っていうか、少し怖いです。あなたを信用していないわけじゃなくて、記憶が消えたらどうなるのか・・・それが、わからなくて」
斉藤は佑香の言葉に視線を戻した。
「でも・・・私は・・・『あの記憶』が・・・お化けみたいなあの記憶が」
斉藤が腰を浮かせた。佑香は自分の声が震えているのに気がついた。
「もう言わなくていい、思い出してはダメです」
ああ、また人を心配させてしまった。自分のせいで。
