少し収まりかけていた石見は、警察に保護されてパトカーに乗せられると再び苦しみだした。
「石見さん!」
幸は隣に座り、蒼白な石見の顔を覗き込んだ。汗とも涙ともつかない透明なしずくが頬を伝っている。痛々しい。
「だ、大丈夫なんですか・・・?」
幸のバングルが本物だとわかった警官はすっかり下手になっていたが、パニック状態の女性に腰が引けている様子だ。
「・・・わからない」
幸はポケットから携帯を取り出すと、短縮ダイアルで坂島を呼び出した。
「患者の発作がおさまらない」
『きっかけは?』
突然の電話に坂島は驚きもせず、最小限に短縮された幸の言葉を性格に読みとった。
「コートだ。床に落ちたコート」
『黒いコート、ね?なるほど・・・診断書には数分で収まると書いてあるけど』
「もうその5倍は経ってる」
幸は顔を上げてあたりを見回した。石見の発作を悪化させている何かがあるはずだ。
『幸』
坂島の次の台詞は、聞かなくてもわかる。
『【消さない】つもりなの?』
「・・・」
正論だ。根本的な治療の方法を幸は持っている。
そのために会いに来たのだ。
「・・・再審査を頼むつもりだった」
『理由は?』
「わかってんだろ!」
幸は耐えられず、感情的な声を出した。言いながら既に後悔していたが、それも遅い。
能力を持ちながら、それを使いたがらない幸の性質を一番よく知っているのは確かに坂島だ。しかし、彼女は立場上それを認めるわけにはいかない。
「・・・俺が悪い」
『責任は私にあるのよ、幸』
「わかってる」
石見はこの試練を乗り越えられるかもしれないと、さっき感じた。
消してしまえば、彼女は全てを忘れ、苦しみからは解放されるだろう。
しかし、それでは彼女のこの1年は何だったのか。
それは前に進んだことになるのだろうか。
自分は彼女から、何か大きなものを奪ってしまうのではないか。
「助けて・・・」
全身を強張らせた石身の力ない呟き。
『幸、どうしたの?幸!』
助けて・・・
『大丈夫』
嘘、誰?
『・・・あなたはとても強い。大丈夫です』
嫌だ、我慢したくない・・・助けて・・・
『大丈夫』
本当?
『大丈夫』
怖い・・・
「石見さん、目をしっかり閉じていてください」
何?
佑香は、目の奥がゆるゆると暖かくなるのをぼんやりと感じた。
次の瞬間、暗かった目の前がパチリと一瞬光った。稲妻みたいだ、と思った。
稲妻、そうだ。小学校の林間学校で、すごい稲妻を見たっけ。
山をずっと登るとログハウスがいくつもあって・・・三角形の屋根裏部屋で友達とパジャマでおしゃべりをしてたら
真っ青の電気が空を走って・・・ガラスの小さな窓の向こうに、まるで血管みたいな模様を一瞬描いて。
起きているのがバレたら怒られるのに、どこの部屋でも一斉にキャーって悲鳴をあげた。
怖かったけどとても綺麗だった。
そんなこと、ずっと忘れてた・・・

