「その内部告発者は特定できたんですか?」
「おおよそは。ただ、その人物以外に一体どれだけの人間が同様の疑念を持っていたかについては全くわからない状態です」
「・・・その辺はなんとかなるでしょう。人間の記憶はとても都合よく出来てますから、疑問の対象者が目の前から消えれば忘れてしまうことも大いにありえます」
「そんな対応で大丈夫なんですか?」
「むしろ根こそぎ対処しようとする方が無理がありますよ。記憶の一部を、なんの違和感も残さずに【消去】することはできません。
そこには必ず何らかの【つじつまの破綻】が残ります。
原因記憶のせいで病的な状態に陥っている人や、自ら望んで【消したい】と思うなら違和感が残っても本人は納得できるでしょうが、今回のように本人の了解無しに【消去】する場合、確率は低いですがその違和感に気づき、固執されると大変やっかいです」
「固執?」
「人は、自分の精神に何か【普通でない】ことが起きているかもしれないと疑うことが好きなんです」
「・・・」
幸は淡々と答え、3枚の資料を浅井に差し出した。
「覚えました。これ持ち出し禁止でしょ?」
「ああ、ありがとうございます」
「で、本人たちは?」
「社内で取調べ中です」
面倒な仕事は早く終わらせて、幸はできれば泊まらずに日帰りしたいと思いながら席を立った。
ホテルの何もない部屋で眠るのは、幸にとってはかなりの苦痛なのだ。
エレベーターは広く、誰も乗り込んでは来なかった。
「・・・その3名は、どんな状態なんですか」
「どういう意味ですか?」
「興奮しているとか衰弱しているとか、そういう意味です」
相手に動き回られたり、強く拒絶されたりすると【記憶のサーチ】はとてもやりにくい。
出来ないことはないが、それを3人分こなすのは重労働だ。
「自分達に疑いがかかっていることは解っていますし、ずっと取り調べですからね・・・普通ではないでしょうが。鎮静剤を打った方がいいですか?」
「様子を見て決めます。薬が入ると今度は混濁してくるので・・・トレードオフですね」
最後の一言は自分に向けて小さく呟いた。
扉が開く。

