目が覚めたとき、新幹線は丁度小田原を通過したところだった。
思ったより早く開放されたので、念願の日帰りを果たすことが出来たのだ。
時刻もまだ8時半。
無防備に寝てしまわないよう、幸はiPodに映画やポッドキャストを大量に詰め込んで持ち歩いているのだが、それでも睡眠不足には勝てず、いつの間にか眠り込んでしまったらしい。
半分も減っていない緑茶のボトルに手を伸ばす。
悪夢、とはいえないが、同じイメージばかり延々繰り返す夢を見ていたような気がする。
今日レコーダーで見た、あの「時間が飛ぶ」イメージだ。
『本日も東海道新幹線にご乗車いただきありがとうございます。まもなく新横浜に停車します』
スーツ姿のビジネスマンが占領する夜の車内にアナウンスが響く。
疲れた仕事人たちをそっと起こす天の助言。
(・・・先生)
新横浜で降りれば、地下鉄で30分もせずに養成所へ行くことができる。
幸が10代最後の数年間、そのほとんどの時間を過ごした場所。
『Ladies and gentlemen, we will soon make a brief stop at shin-yokohama. 』
隣に座っていた中年の男が立ち上がり、幸の頭上からバッグと紙袋を下ろし始める。
(ダメだ)
湯浅に話すとしたら、それは解決の報告でなくてはいけない。
自分はもう、彼の元を卒業したのだから。
困ったことがあれば、いつでも来ればいい。
お前は・・・誰かに相談したり、誰かを参考にするってことが出来ないからな。
あの違和感は幸の仕事を邪魔するものではない。
今すぐ解決する必要はない。
幸はそう自分に言い聞かせ、目を閉じてシートに背を深く沈めた。

