坂島のような医師に診てもらいたいと思う患者がこの世に居ることを、幸(こう)はいまだに信じられないでいる。
小さいながら瀟洒なクリニック。
会員制バーのような扉を開けると受付があり、意表をついて若い男性が問診表を差し出す。
待合室にはモード誌とニューズウィーク。
目を留めるポスターも啓蒙的な医療パンフレットもない場所で朝晩問わず流れるジャズを聴きながら待っていると、名前が呼ばれ、恐る恐るくぐった診療室では坂島がにっこり笑って出迎える。
真昼の悪夢だ。
幸はここへ来るたび、患者用の入り口を眺めながらそう思う。
「こんにちは」
受付は小部屋のようになっており、その中へ入るとバイトの林が機嫌よく声をかけてきた。
「入っても大丈夫?」
「さっきご飯持って帰ってきたから少し待ってあげて」
「人を呼びつけといてメシかよ・・・」
「午前の患者さんが長かったんだよ」
今から2年前、最初に紹介されたとき林は18歳だと言った。
それが本当なら今年20歳になるはずなのだが、幸は絶対に年齢詐称だと思っている。
精神的には異常に落ち着いて大人びているが、対面して話してみると昨日出てきたばかりの新芽のような、無垢な印象ばかりが残るのだ。
坂島にだまされているのではないか、ちゃんと給料を貰っているか、と確認したくなる。

