自動ドアの外にまでマック独特の匂いが漏れ出している。
幸は大して空腹でもないのにレジの上に並んだメニューの写真につい目をとめ、そのまま流れに乗ってチーズバーガーとコーラを注文していた。
メールには「2Fにいます」と書かれていたのでトレイを持ったまま階段を上がる。
ビニール製の植物越しに目を走らせると、窓際の4人がけに1人で座っている制服の少女。
他にそれらしい人物もいないので、幸は階段の一番上に足をかけたままメールに返信してみる。
まだ5時を少し回った時間なのに外は真っ暗で、テーブルの上に置かれた少女の携帯が緑色に光りだすのがガラス窓に反射してよく見えた。
「坂島クリニックの者です」
幸が立ったまま声をかけると彼女はビクリと顔を上げた。真っ直ぐに伸ばした髪が揺れる。
「石見佑香さんですね?」
「・・・はい」
店内のBGMに消えてしまいそうな声で答える。
緊張しているのだろう。
自分ごときに会うために緊張するなんてなんて気の毒な、と幸は思う。
別に偉い人間ではない。ただ、少し珍しい人間ではあるけれど。
幸はとりあえず持っていたトレイを石見の向かいに置くと、左手の袖を少しまくって見せた。
手首の少し上にピッタリと巻かれた、継ぎ目のない樹脂製バングル。
KOU SAITO section7 no5 JPN幸の能力が国家に認定されたものであるという証明だ。
「斉藤コウ、さん・・・?」
石見は覗き込み、声に出した。
「コウは幸せの幸です」
露骨な名前だと幸は思う。
そりゃ誰だって人生の目的は幸せになることだろう。
しかしもう少し婉曲的な表現はなかったのか。
石見は小さく息を吐いた。
笑ったのかもしれなかった。

