知らない大人に会うのは気が進まなかった。
怖い人だったら嫌だし、いい人だと何だか面倒だ。
佑香は、知らない人と話した後に残る「ざわざわした感じ」が好きではなかった。
妙にハイテンションになってしまった声や、言わなきゃよかった言葉などがぐるぐる頭を巡って、それが薄まってしまうまでずっと憂鬱な気分でいるはめになる。
しかもこれから会うのはとても特殊な人だ。
そういう能力を持った人がこの世にいると言うことは知っていても、実際に見たことも会ったこともないとなればそれはミュージシャンやプロアスリートと同じ。
ただ、なんというか「凄さ」の種類が違うだけで。
ちゃんと相手をしてもらえるのだろうか、いきなり怒られたり、あしらわれたりしないだろうか。
少し考えると次から次へと不安があふれ出てくる。
この、コントロールできない感じは、いつもの発作にそっくりだ。そう思うと心臓がどきどきと脈打ちだした。
どうして1人で来ちゃったんだろう。
どうしてこんなことになったんだろう。
どうしてあのとき――
止められなくなってしまった思考から呼び戻すように、テーブルに置いた携帯が光る。
「石見佑香さんですね?」
名前を呼ばれ、はじかれたように見上げた先には、トレイを持った若い男性の姿があった。
自分たちのような学生ではないが、いわゆる社会人でもなさそうな外見。
例えばスーツを着ていないとか、髪が頬にかかる長さだとか、声の出し方とか。
それに、若い。
思っていたような、怖い人ではないのかもしれない。
【法定特殊能力】という語感だけで警察官のような人物を想像していた佑香は少し戸惑う。
ただ、それでも、それが「彼」なのだということは、その目を見た瞬間に理解できた。
彼が店内の照明を背負っているせいで瞳の色もろくに見えないけれど。
ああ、特殊というのはこういうことかと、それだけで佑香はわかった気がした。
「・・・はい」
